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ポコ ア ポコ

「世界ってのは驚くほど単純に廻っているもんだ」

そんな気取った言葉を聞いたのはもう5年も前の話だ。
あの時の私は「何言ってるんだコイツ」と哀れむように聞き流していたし、周りのみんなも同じような態度をとっていた。
歴史を紐解くまでもなく世界は確実に、且つ複雑に進歩を遂げていることは明白であり、私たちは明日をどう生きればいいのかすら思慮を巡らせる毎日を送っていたのだから。
だからといって、私には考えることを放棄した彼を責めることはできなかった。そうしたほうが楽だということも分かっていたから。彼と私は違うのだ。私はそれでもこんな世界で生きていくしかないのだと知っていたから、その場を去った。

――彼が死んだ。

唐突な再会を果たしたのは、何も喋れなくなってしまった彼の姿だった。
あれから5年間どうしていたものやらと心配していなかったわけではないが、それでもこんな形で再び対峙するなんて想像できるはずがなかった。
彼のもとを去ってからのことはよく知らない。知ろうとしなかったからだ。
だが、この状況がそれを物語っている。
会場は弔問客で溢れ、当人は満足そうな顔で横たわっている。もちろんそれだけではありふれた光景としかいえないかもしれない。「誰も悲しんでいない」という一点を除いて。

私は奇妙な感覚に囚われていた。
聞いた話では、その後もなにか偉業を成し遂げたとか名声を浴びる活躍をしたわけではなかったとか。
焼香を済ませ、取り立てて長居をするつもりがなかった私は、しかし一歩引いてその光景を見つめていた。
不意に彼が言っていたあの言葉を思い出す。
――その言葉の答えがこれなのかも知れない。
ここは通常のそれとはまるで違い、場違いな雰囲気で包まれている。
180度見方の違った彼が歩んできた世界、私が理解できなかった世界。
彼はこの複雑な世界をとても単純な世界だと言い、日々起こる様々なものを楽しんで生き切ったのだろう。私の考え方ではとても想像がつかない、けれどもしできたならどんなに幸せなものだろうか、そう思えた。
私の考え方がすべて間違っているとは思わない。けれどちょっとでもそんな生きる努力をしてみるのも悪くはないのかもしれない。
「あいつは死んでからもうるさいやつだな、全く」

そう呟いて、私はその場を後にした。

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